エヴァン・マットソン「憧れの日本で世界を狙う」
アメリカの北西に位置するワシントン州のシアトルで生まれたエヴァン。
幼い頃には両親の仕事の都合で日本に暮らしていたこともあった。もっとも、物心つく前のことなので本人の記憶には残っていないそうだが。
運動好きだった少年時代
エヴァンがバスケットボールを始めたのは5歳のとき。4歳年上の2人の兄がバスケをやっていたことがきっかけだった。父親もバスケをしていた。バスケの他にも野球やホッケーなどもやっていた。小学生時から背が高かったエヴァンは、バスケではセンターとして低学年時から試合に出る機会が多かった。
フォワード、ガードへのコンバート
ところが、10歳を過ぎた頃から身長の伸びが止まってしまう。だんだん同級生に身長が追いつかれていったエヴァンは、中学生の頃にはガードやフォワードなどアウトサイドのポジションをプレーすることになる。バスケを始めた頃はゴール近くでのプレーしかしていなかったエヴァンは、アウトサイドでずっとプレーして来たチームメイトに比べて技術や経験が足りず、あまり出場時間を貰うことができなかった。それでも、試合に出る機会を勝ち取りたいと、遠い距離からのシュートを打ち込んだ。
14歳頃から止まっていた身長が再び急速に伸び始め、ポジションもセンターへと戻っていった。だが、アウトサイドのシュート練習も欠かさず続けていた。それは、父親から「シャック(シャキール・オニール)やドワイト・ハワードのようにアメリカ人の大きい選手はシュートが上手くない。お前はダーク・ノヴィツキー(ドイツ人)のように、長身でもシュート力のある選手になれるよう、シュートの練習は続けなさい」と言われていたからだった。
プロ選手への目覚め
野球で高校の推薦も来ていたエヴァンだったが、バスケを続けていた兄の影響もあって、この頃からバスケ一筋になっていく。「高校のチームのコーチは素晴らしい人で、テクニックやバスケについての考え方を成長させてくれた」と語るエヴァンは、高校では本来のポジションであるセンターとして活躍。高校は全米で9位の成績を残すことができた。
高校卒業後、エヴァンはスカラシップ(奨学金)を受け、故郷のシアトルから約2,000キロ離れたテキサス州の大学へ進学。アメリカ大学スポーツ『NCAA』のディヴィジョン1に属するチームでハードにトレーニングを重ね、エヴァンは自身の能力にさらに磨きをかけていく。ちょうどその頃、兄の1人が大学を卒業後、ドイツのリーグでプロバスケ選手としてのキャリアをスタート。これが、エヴァンに将来を考えさせるきっかけとなり、プロバスケ選手になることを明確に目指すようになった。
エヴァンが2年時には、カンファレンス(地域)の1位で全米大学トーナメントに出場。4年時には得点・リバウンドでチームの柱となり、校内の優秀選手に選出された。
肌で感じた『NBA』のレベル
大学を卒業後、プロ選手を目指すエヴァンはNBAの育成リーグである『NBA D-LEAGUE』のチームからトレーニングキャンプに呼ばれる。結果を残していけば、NBAからも声がかかるチームにあって、長身選手もエヴァンだけという状況だったが、トレーニングキャンプに参加して間もなく、NBAでプレーしていた長身選手数名がチームに合流。「NBAでプレーした選手たちは体力もフィジカルも凄かった。でも何より、一回の練習、一本のシュート、一つのプレー全てに全力で取り組んでいた。これがNBAでプレーする選手のメンタリティなんだって衝撃を受けたよ。」
こうして主力の座を奪われたエヴァンは、トレーニングキャンプ3週が過ぎ、開幕目前というところでカット(解雇)された。そのシーズン、エヴァンはどのチームとも契約することなく、個人トレーニングを続けた。
「解雇された時はショックだったけど、兄や家族が励まし支えてくれた。だから僕はチャンスに向けてトレーニングの日々を過ごすことができたんだ。」
初めてのプロ、初めての海外
腐らずチャンスを待ち続けたエヴァンに、北欧のノルウェーのチームから声がかかった。海外のチームからの誘いだったが「世界の色んな所に行ってみたいと思っていた」と、迷うことなくノルウェー行きを決めた。ノルウェーは故郷のシアトルに似た街並で、生活にはすぐに馴染むことができた。チームも長身選手が自分だけで、主力としてシーズンをプレーした。だが、試合の観客はいつも50?60人ほど。「街もバスケチームに興味が無いようで、普通のクラブチームでプレーしてるみたいだった」という。
そして憧れの日本へ
ノルウェーで1シーズンをチームでプレーした後、また別のチームから声がかかった。それが、アースフレンズ東京Zだった。
「運命を感じたよ。日本は僕の家族にとても縁がある国だし、『日本は素晴らしい国だ』って聞かされていたからずっと行きたいと思っていたんだ。」エヴァンは新たなチームでのプレーを決め、日本にやってきた。そして現在、アースフレンズ東京Zのセンターとして、チームプレーを重んじながら得点・リバウンドでチームを支えている。
エヴァンは現在の自分の状況をこのように語ってくれた。「日本は今まで暮らしていた場所とは別世界で、凄く新鮮。言葉も全然通じないしね(笑)。このチームのファンはとってもエキサイティングだし、街の人たちも自分のことを見かけると『プロバスケ選手だ』っていう目で見られているのを感じるんだ。それが嬉しい。監督やチームメイト、フロントスタッフも良い仲間たちで、とっても居心地が良いよ」
チーム最長身のエヴァンだが、見据える先も誰より高い。
「目指しているのはNBA。それは今も変わらない。日本での練習でも試合でも、NBAに行くことを意識しているよ。今はこのチームで、この仲間・ファンと一緒にチャンピオンシップを取りたいのが一番だけどね。」
爽やかな笑顔の裏に、NBAのレベルを誰よりリアルに知っているエヴァンだからこその強い思いが垣間見えた。