ー「負けたくない。」その一言の裏にいるライバルを見据える久岡幸太郎選手。
なりたい自分とその未来を語った。

やんちゃ坊主、バスケと出会う

「父親は野球、母親はソフトボールをしていたこともあって、両親は野球をやらせたかったんだと思います。」けれど小さい頃は色々なスポーツに興味津々だった。「野球をやってみたり、友達の影響でサッカーをやってみたり、幼稚園の時に劇で演じたのはベッカム！金髪にして張り切っていました。水泳もやってたんですけど、キツくて。スイミングスクールの更衣室に行って、水着だけ濡らして帰ったり（笑）。親にバレないようにしていました」。
運動神経は抜群な反面、親が校長室に呼ばれるほどのやんちゃ坊主へと成長。そんな彼がバスケに出会ったのは２つ上の姉の影響だった。そしてすぐにバスケにのめり込む。

中学を転校！強豪チームに。

地元の小学校に男子のミニバスがなかったため、始めた当初は女子だけのミニバスで一緒にプレーしていた。本格的に男子のミニバスチームに入ったのは3年生のとき。「ミニバスの時から背が小さかったこともあって、ずっとガード。ボール持って指示を出していました」。練習は厳しかった。「練習が終わってから、夜真っ暗な校庭を走っていました。コーチがストップウォッチを持っていて、怒られるからみんなダッシュ。そんな環境でしたね」。
同学年がいる環境を求め、小学５年生の時に違うチームへ。関東大会で優勝するほどの強豪チームになった。そして中学になると久岡はより強い環境を求めるようになる。
「埼玉県にガウチョーズっていうクラブチームがあるんです。全国的にも有名なクラブチームで、そこに姉ちゃんが通ってたこともあって、僕も小学校6年生からちょくちょく顔を出してました」。久岡が中学生になってからは、群馬県の地元の中学に通いつつ、埼玉県のガウチョーズにも所属し、二足の草鞋をはいた。
群馬から埼玉まで長距離移動の大変さや、部活自体も強いところでやりたいという意思もあって、1年次の冬には地元の中学校から埼玉県の大石中学校への転校を決めた。「姉ちゃんも同じような生活をしていたので、親もすぐに了承してくれましたね」。16時から19時まで部活でバスケ、19時から21時までガウチョーズで練習、埼玉の上尾から群馬まで電車で帰ってくるため、家につくのは23時、朝も7時から朝練があるので家出るのは5時というハードスケジュールをこなす毎日だった。「ほんとに寝るだけのために家に帰ってきてました。土日も部活があるから結局休みなし。けれどその分、結果もついてきました」。久岡が中学3年次には公式戦無敗。全国中学校バスケットボール大会で優勝も達成するという圧倒的な強さを見せた。「実は中学のメンバーとガウチョーズのメンバーがほぼ一緒なんです。中学校のスターティング5がガウチョーズのスターティング5（笑）」。周りのライバルと切磋琢磨しながら着実にバスケットの腕前をあげていった。

自分を変える、大学時代

その後は前橋育英高校へ入学。入学後は1年時からベンチ入りし、試合にも出場していた。 戦績としてはインターハイでベスト8が最高成績。悔しい思いを残したまま、中央大学の門をたたいた。
試合に多く出るようになったのは3年生の時から。久岡はそれまでの大学バスケ生活は上手くいっていなかったと語る。「2年時のシーズン終わり、1部にほぼ上がれる状況だったのに、最後の3試合くらいで負けちゃって上がれなかったんですよね。自分はコートにも立ってないっていう不甲斐ない思いをした時に、振り返ってみたら、今までは周りのせいにしてたなって思って。高校までは絶対的な指導者がいる中でやってきたけど、中大は結構学生主体、スタッフもあまり練習にこないような環境でした。いつしか自分が試合に出られないことをそのせいにしていたんです。監督がちゃんと見ていないとか。出れなくてもヘラヘラしてカッコつけていたんです。でもそれじゃ、このまま終わっちゃうって思った時に原因は自分にあるんだって気付いて、そこから常に自分にベクトルを向けてやらなきゃと考え直しました」。意識の変化をすぐ行動に移す。練習前後のシューティング、トレーニングの量を増やし、質も高めた。
4年次にはチームメイトからの推薦でキャプテンに就任。「同期がみんなやんちゃなやつばっかりで、適任者がいなかったので、やるしかないなって（笑）。大学の時は練習メニューを組むのも自分たち。後輩の面倒ももちろん自分たち。リーダーシップと組織を上手く回すことを考えました」。
同時にキャプテンとして、ポイントガードとして、やらなきゃいけないという意識も芽生えてきたという。中学校まではずっとポイントガードだったが、いきなり身長が伸びた高校生のときにフォワードもこなせるガードになった。高校のときは点も取らなくてはいけないポジション。大学に入ってから、ゲームメイクするような本来あるべき姿のポイントガードに戻った時、最初は感覚を忘れてしまっていた。「ポイントガードのバランス、点を取るのとパスをするのとのバランスで悩んで、難しかったです。でもチームの中で自分が必要とされるポジションは必ずあると思うのでそこをやるように努めました。プロに行く道はポイントガードしかないってことも分かっていたので、絶対ポイントガードの技術はあげたいと思っていました」。結果、春のトーナメントではアシスト王を獲得。「アシスト王はチームメイトがシュートを決めてくれたからとれました。僕はただパスを出しただけです（笑）」
大学最後のリーグ戦、念願の1部でプレーしたものの、やはり1部の壁は高く自動降格となってしまった。「最後の最後まで自分たちにずっとチャンスがあったんです。でもそのチャンスを自分たちで取れなくて終わってしまった。それこそ3点差で負けたり、延長戦の末1点差で負けたり、勝ちきれませんでした。キャプテンとしてもポイントガードとしても責任を感じて、苦しくて悔しかったです。でも、どうにかしなきゃ、どうにかしたくて、でもできなくて。大学の最後の方は苦しかったです」。

いざ、プロのコートへ。

「悔しい思いがずっとあって、Zにも大学バスケを引退した2日後に来たんですよ。いつ来れるか聞かれた時にすぐ行きますって」。実は就職活動はまったくしていなかった久岡。「Bリーグに絶対行きたくて。就活用のスーツは買ったけど袖を通してないし開けてもいないです（笑）。人生経験として1回くらい就活してみようかな、とも思ったけど、その時間すらもったいないなって」。久岡が4年次のときは念願だった1部でプレーができるという大切な時期。「僕らは全部が勝負。この時期に就活は入れられないなって。中途半端にはやりたくなくて、バスケット一筋にしました」。そんなときに東京Zから声が掛かった。B1に挑戦したいという気持ちもあったが、「自分が将来目標としている場所に行くにはスキルを上げることが大事かなと思った時に、このチームにはいいコーチがいて環境も整っています。今の自分には適していると思いました」。
プロとして臨んだ最初の試合、すでに相手に大量リードを許しており、ほぼ勝負が決まってしまっていた状況での残り僅かの時間だった「緊張はしていなくて、始めてコート入った時はファンの方が名前を呼んでくれたりして嬉しかったです。ここから始まるんだっていう気分になりました」。シーズン終盤からはスターターとしても起用されている久岡。「スタートで出たら自分のアグレッシブさでチームを勢いづけなきゃ行けないし、控えから出たら流れを変えなきゃいけない。結局自分に求められてるものっと、アグレッシブなディフェンスや、ドライブしてパス、シュートも打って、チームに勢いづけるようなプレーを求められてると思うので、どの場面で出てもできるように準備はしていこうと思います。だんだんステップアップできて、次はゲームメイクを求められたりしていくと思うので、今求められてることを完璧にこなしてどんどんステップアップしていきたいですね」。
そしてポイントガードとしてだけでなく、「ディフェンスも自分の長所」と語る。「ポイントガードとしての技術や考え方はまだ学んでいかなきゃいけないけれど、ディフェンスは今までやってきたものが通用していると思うし、これからも伸ばしていきたいです」。中学からディフェンス主体のチーム、高校、大学も全体的に小さいチームだったのでディフェンスで足りない身長を足で補っていた。「バスケをする中でディフェンスは絶対的に必要でした。小さいチームでやってきたからこそそういう技術を手に入れることができたことは、ありがたかったですね」。

ライバルとともに。

そんな久岡のゴールは、日本のトップレベルの選手になること。
僕と今まで一緒にバスケやってきた、中学での長谷川暢（秋田ノーザンハピネッツ）、高校での熊谷航（シーホース三河）、大学での中村功平（滋賀レイクスターズ）は同じポジションで、ガードとして一緒にやってきました。その3人はB1のチームに行ってプレータイムももらっていますが、自分は下のカテゴリーでバスケットをやっています。でも現状を僕はポジティブに捉えていて、今は自分のゴールのためのステップだと。自分の上にライバル達3人がいて、僕はあいつらには絶対負けたくない。そのために今できることは？って自分にベクトルを当てると、すぐに燃えてきます。3人とも仲は良いけど、この3人には負けてられねーぞって気持ちになります。中学、高校、大学で一緒にやってきた人達がBリーグで一緒にプレーする、そういう選手がいるからこそ常に自分のモチベーションになるのでポジティブに捉えています。あいつらには負けたくない。いつか一緒のコートでプレーしたいと思っていますね」。常に心の中にいるライバルの存在が、久岡を強くしている。そして久岡にはもう１つ目標がある。「自分も小さい頃に憧れた職業がプロバスケットボール選手だから、小さい子の目標になりたいですね」。ずっと憧れていたプロバスケットボール選手、そのスタートに立ったばかりの久岡。小さい子の憧れの選手になるために、そして日本のトッププレーヤーになるために、ライバルたちの背中を追い続け、熱い闘志を燃やし続ける。